概要
動画の視聴は日常生活の一部となり,視聴速度を変更する人も増えています.しかし,視聴速度の変更がもたらすのは,良いことだけなのでしょうか?
本研究では,視聴速度の変更をあえて阻害する手法を示します.動画像を本来のテンポでだけ視聴可能とすることで,より良いコミュニケーションの形を模索します.
適用例
⟪Cmainandes 3: Llamingos⟫ (CC BY 4.0) への適用例を示します.
・720p60 または 1080p60 の画質設定
・60 Hz のモニタ設定
・通信環境の良い状況
で視聴すると,速度に応じて動画像の見えが変化することが確認できると思います.
なぜ視聴速度の変更を阻害するのか?
既に教育分野の研究により,視聴速度が動画像の意味的理解にあまり影響しないことが明らかにされています.では,なぜ視聴速度の変更を阻害する必要があるのでしょうか?
視聴速度の変更を阻害する理由は,動画像の芸術性を考慮することで説明できると考えられます.
言語学者である Jakobson は「詩」とは何であるかを説明するうえで,コミュニケーションを 6 つの要因とそれに付随する機能に切り分けて分析しました.

このうち詩的機能は,メッセージの意味ではなく形式に着目した機能であり,これがコミュニケーションを芸術的なものにします.視聴速度の変更は,テンポや間合いといったメッセージの形式を直接的に変化させるため,この機能に最も影響を及ぼすと考えられます.
教育分野の研究では,詩的機能への影響は考慮されていません.視聴速度の変更を阻害することは,動画像の芸術性を保持することに貢献できるのではないでしょうか?
色振動による阻害法
本研究では色振動を活用することで,視聴速度の変更を視覚的に阻害します.
色振動とは,輝度が一定で色度のみ異なる色が高速に切り替わることです.高速に切り替わる色を,人間はその中間色として知覚することが知られています.この現象は,主に可視光通信の分野で研究されています.本研究では,それらの研究と同様に動画像の各フレームを知覚的等価な 2 枚のフレームに分割することで,視聴速度に応じた見えの変化を可能にします.
以下の図は,視聴速度に応じた見えの変化を簡易的に示したものです.視聴速度変更時は,色の切り替わりが遅くなり,人間に知覚可能となることで動画像の見えが変化します.特に高速視聴時は,一種の時間的エイリアシングを引き起こすことで,これが可能になります.詳しい動作原理は,発表原稿を参照してください.

本研究では,以上のように動画プラットフォームを開発するのではなく,動画像自体に細工を施すアプローチを採ります.これにより,第三者ではなく動画像の発信者が直接,視聴速度の変更を阻害することが可能となるほか,視聴環境の自由度が向上します.
メンバ
背景色が灰色のメンバは現在はプロジェクトに関わっていないメンバです。現在も藤代研究室に所属しているメンバは名前の前に藤代研のアイコンがついています。
名前 | 現在の所属 | ホームページ |
---|---|---|
![]() | 慶應義塾大学 |
業績
下線が引いてある著者は藤代研究室所属している/所属していたメンバーです。
発表(査読なし)
- 北山 大起,顾 人舒,藤代 一成:「色振動を用いて視聴速度の変更を阻害する動画像の提案と評価」,映像表現・芸術科学フォーラム2025予稿集(映像情報メディア学会技術報告,Vol. 49,No. 10,pp. 401–404,AIT2025-155),東京工芸大学中野キャンパス(東京都中野区),2025年3月10日,優秀ポスター発表賞受賞.
- 北山 大起,顧 人舒,藤代 一成:「色振動を用いて視聴速度の変更を阻害する動画像の提案」,情報処理学会第87回全国大会(立命館大学),7N-06(講演論文集(1),pp. 535–536),2025年3月15日.
資金
挑戦的研究 (萌芽) :23K18468 (2023-)