概要
CGで表現された物体は通常,長期的な時間経過による影響を受けません.しかし,物体の長期的な時間変化,つまり経年劣化は,現実世界において普遍的な現象であり,劣化した物体はそれを見た人々に時間経過を強く印象づけます.そのため,現実世界と仮想世界の本質的な差異ともいえる経年劣化の考慮は写実的なCGの描画において必要不可欠なものです.
実際に,風雨などの影響を受けた経年劣化をCG上で表現する手法であるウェザリングの研究はこれまでに数多く存在しています.経年劣化なかでも金属の錆は,劣化を視覚的に印象付けるものであり,なおかつ現実世界で頻繁に見られる代表的な例であるため,特に多くのウェザリング手法が提案されています.
しかし,こうした手法において,防腐剤の作用あるいは存在自体を無視してされています.現実の金属には防腐剤が塗布されることがほとんどであり,剥出しの金属が劣化していく場面はあまりありません.そのため,金属のウェザリング手法を多くの場面に適用するには,塗膜による影響の考慮と,塗膜に対するウェザリング手法が必要となります.
そこで本研究では,金属物体上の塗膜を直接的な対象としたウェザリング手法を提案します.変形を伴う劣化現象としての塗膜剥離を特に重視し,三次元空間上のポリゴンメッシュでモデル化した塗膜を力学的な作用を考慮しながら変形していくことで,亀裂や剥離のビジュアルシミュレーションを実現します.
また,システムとしての監督可能性 (directability: イメージする結果を得るために,ユーザがシミュレーションを制御できる性質) を重視しており,モデルをなぞることによる対話的な剥離の制御やカメラの移動を可能にしています.
Reality Modeling Triangle上の位置づけ
本研究は実測データを積極的に利用するのではなく,塗膜の劣化を計算によって表現することを目指しているため,Phenomenologicalとは遠い位置となります.また,モデル化による計算の簡略化を目指していることはもちろんですが,基本的には力学的な考察に基づいて計算方法を求めているので,Physicalな要素が強いといえます.
メンバ
藤代研究室に所属しているメンバは名前の前に藤代研のアイコンがついています.
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プレゼンテーション
業績
下線が引いてある著者は藤代研究室に所属しているメンバです.
学術誌
- Akinori Ishitobi, Masanori Nakayama, Issei Fujishiro: “Visual simulation of crack and bend generation in deteriorated films coated on metal objects: Combination of static fracture and position-based deformation,” The Visual Computer, Vol. 39, No. 8, pp. 3403–3415 August 2023 [doi: 10.1007/s00371-023-03029-z]. (Preprint/DemoMovie)
- Akinori Ishitobi, Masanori Nakayama, Issei Fujishiro: “Visual simulation of weathering coated metallic objects,” The Visual Computer, Vol. 36, No. 10, pp. 2383–2393, August 2020 [doi: 10.1007/s00371-020-01947-w]. (Preprint/DemoMovie)
発表
国際発表
- Akinori Ishitobi, Masanori Nakayama, Issei Fujishiro: “Visual simulation of crack and bend generation in deteriorated films coated on metal objects: Combination of static fracture and position-based deformation,” Computer Graphics International 2023, Shanghai, China, August 28–September 1, 2023.
- Akinori Ishitobi, Masanori Nakayama, Issei Fujishiro: “Visual simulation of weathering coated metallic objects,” Computer Graphics International 2020, online, October 20–23, 2020. (Presentation)
- Akinori Ishitobi, Masanori Nakayama, Issei Fujishiro: “A deformation method for simulating coating degradation while taking mechanical behavior into account,” 2019 International Conference on Cyberworlds (CW), Kyoto, Japan, October 2–4, 2019, [doi : 10.1109/CW.2019.00066]. (Preprint/Movie/Poster)
国内発表
- 石飛 晶啓,中山 雅紀,藤代 一成:「Visual simulation of crack and bend generation in deteriorated films coated on metal objects: Combination of static fracture and position-based deformation」,招待講演,Visual Computing 2023 発表予稿集,芝浦工業大学豊洲キャンパス,2023年9月17日–30日 (予稿)
- 藤代 一成,石飛 晶啓,杉田 俊平,横田 壮真:「CGによる質感表現への挑戦」,KEIO TECHNO-MALL 2022(第23回慶應科学技術展),No. 53,東京国際フォーラム,2022年12月2日
- 石飛 晶啓,中山 雅紀,藤代 一成:「経年劣化に伴う金属物体上の塗膜の亀裂・湾曲表現—静力学的破壊判定と位置ベース変形による準静的過程のビジュアルシミュレーション—」,Visual Computing 2022 発表予稿集,pp. 2:1–2:6,国立京都国際会議場,2022年10月6日–8日,VC論文賞 (2nd prize),CGVI優秀研究発表賞,CGVI学生発表賞,IPSJ山下記念研究賞 (ビデオ/予稿/ポスタ)
- 藤代 一成,石飛 晶啓,大河原 将:「フォトリアルなサイバー空間構築を支えるCG技術」,KEIO TECHNO-MALL 2020(第21回慶應科学技術展),No. 51,オンライン開催,2020年12月18日 (石飛作成分資料:ビデオ/ポスタ)
- 石飛 晶啓,中山 雅紀,藤代 一成:「Visual simulation of weathering coated metallic objects」,招待講演,Visual Computing 2020 発表予稿集,pp. 15:1–15:4,オンライン開催,2020年12月2日–4日 (予稿)
- 石飛 晶啓,中山 雅紀,藤代 一成「経年劣化による塗膜剥離のビジュアルシミュレーション」,情報処理学会第81回全国大会講演論文集(4),pp. 125–126(2ZC-08),福岡大学七隈キャンパス,2019年3月14日–16日,学生奨励賞受賞 [情報処理学会電子図書館]
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